Cancer 2

August 24, 2016


皆さんに読んで頂きたい本のご紹介です。

 

<目次>

1.   著者履歴

2.   内容

3.   要約

 

 

書籍紹介「ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!」

 

[著者略歴]

著者は、熊本大学医学部を皮切りに、久留米大学医学部、北海道大学医学部、米国留学し、主に癌の分子生物学的研究をされ、株式会社ツムラ中央研究所、国立がんセンター研究所、岐阜大学医学部を経て、開業。岐阜大学医学部・東洋医学講座助教授時代には、マンゴスチン果皮パウダーの抗酸化作用、抗癌作用について研究され、中鎖飽和脂肪酸、ケトン体、癌治療研究の第一人者の一人です。


1953年福岡県生まれ。
1978年熊本大学医学部卒業。
熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、1981年から1992年まで久留米大学医学部第一病理 学教室助手。その間、北海道大学医学部第一生化学教室(1984~85年)と、米国バーモント大学医学部生化学教室(1988~1991年)に留学し、が んの分子生物学的研究を行う。
1992年から株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。1995年から国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズムおよび漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。

1998年4月から2002年3月まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として、東洋医学の臨床および研究や教育に従事。

2002年5月に銀座東京クリニックを開設し、がんの漢方治療と補完・代替医療を実践している。

著書に『癌予防のパラダイムシフト―現代西洋医学と東洋医学の接点』(医薬ジャーナル社:1999年)』『からだにやさしい漢方がん治療(主婦の友 社:2001年)』『見直される漢方治療―漢方で予防する肝硬変・肝臓がん(碧天舎:2003年)』『オーダーメイドの漢方がん治療(シーエイチ シー:2005年)』『決定版! 抗がんサプリメントの正しい選び方、使い方(南々社:2005年)』『自分でできる「がん再発予防」(本の泉社:2006年)』『あぶない抗がんサプリメ ント(三一書房:2008年)』『漢方がん治療のエビデンス(ルネッサンス・アイ:2010年)』などがある。

 

 

[内容]
・癌細胞は、ブドウ糖(グルコース)に対する依存度が正常細胞に比べて何十倍も高い
・癌細胞がブドウ糖を利用できなくすれば、正常細胞にダメージを与えず、がん細胞だけを死滅させることが可能。

・糖分摂取量を減らして、中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖飽和脂肪酸)を多く摂取する「中鎖脂肪ケトン食(糖質制限食)」を実践する
 

[目次]
第1章:がん細胞とは何か
第2章:細胞とエネルギー
第3章:がん細胞の特徴
第4章:糖質の多い食事ががんを増やす
第5章:ケトン体とは何か
第6章:ケトン体を増やすための「中鎖脂肪ケトン食」
第7章:がんを促進する脂肪と抑制する脂肪
第8章:中鎖脂肪ケトン食の実践と注意点
第9章:中鎖脂肪ケトン食療法の抗がん作用を高める代替医療

 

<要約>

【ケトン体に対する根強い偏見】

「ケトン食」は、体内でケトン体が多く産生されるように考案された食事です。

 古来、様々な疾患に絶食療法が行われており、特にてんかん発作が絶食によって減少することは古くから知られていました。そして、「脂肪を多く炭水化物の少ない食事を摂れば、絶食と同等の効果が得られる」という考えのもとに、1920年代に米国のメイヨークリニックで難治性てんかんに対する食事療法としてケトン食療法(ketogenic diet)が発案されました。

 1960年代には中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪酸中性脂肪)を使うとケトン体の産生効率が高いことが明らかになり、中鎖脂肪酸トリグリセリドを利用したケトン食療法も行われています。このようにケトン食自体は非常に歴史の古い食事療法です。

 ケトン食が肥満やメタボリック症候群の改善に有効であることを示す臨床試験の結果が数多く報告されています。肥満、メタボリック症候群、糖尿病やその背景にあるインスリン抵抗性は、癌の発生と進行を促進することが明らかなので(確実な証拠がある)、ケトン食が癌発生や進行を抑える効果があると考えられています。そして、基礎研究や臨床試験によってケトン食の抗癌作用のエビデンスが蓄積してきています。
 以上のような状況で、1年くらい前から中鎖脂肪ケトン食療法(中鎖脂肪を多く使ったケトン食)をがん患者さんに勧め、私自身も実践して、その抗癌作用と健康作用(減量効果や体調の改善)を実感したので、昨年の夏頃から多くの進行癌の患者さんにこの食事療法を積極的に勧めるようになりました。
 最初のうちは、標準治療で効果が無く、匙を投げた患者さんが対象で、人数も少なく自己責任での実践だったので、特に主治医からの反論はありませんでした。
 昨年の夏頃からは、抗癌剤治療の抗腫瘍効果を高める目的で、抗癌剤治療中に中鎖脂肪ケトン食やメトホルミンの併用等を積極的に併用しました。しかし、患者さんが主治医にこの食事療法(ケトン食)を行っていることを告げると、ほぼ全ての医師は「そんな馬鹿なことはすぐ止めろ」というニュアンスの態度で反応し、主治医の意見に従ってケトン食を止めていく癌患者さんが多いのが現状です。
 主治医から「ケトン体は体に悪い」「肝臓を悪くする」「糖質をとらないと生きていけない」という意見が直ぐに返って来るようですが、これらは科学的根拠が全くなく、明らかにケトン体に対する偏見でしかありません。

 「ケトン体は体にとって悪いもの」というのが医師や薬剤師や栄養士の間で常識になっているのは問題です。
 アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸は酸性が強いので、これらが血中に多くなると血液や体液のpHが酸性になります。このようにケトン体が増えて血液や体液が酸性になった状態をケトアシドーシス(ketoacidosis)と言います。

 糖尿病性ケトアシドーシスは主に1型糖尿病患者に起こり、インスリンが不足した状態で脂肪の代謝が亢進し、血中にケトン体が蓄積してアシドーシス(酸性血症)を来たし、酷くなると意識障害を来たし、治療しなければ死に至ります。したがって、糖尿病の人では血液中のケトン体濃度の上昇は糖尿病の悪化を示すサインとして知られ、ケトン体は体に悪い物質と思われる方が多いと思います。
 しかし、インスリンの働きが正常である限り、ケトン体は極めて安全なエネルギー源であり、絶食すれば誰でも出て来る物質です。アシドーシス(酸性血症)も血液の緩衝作用により正常のpHに戻ります。
 ケトン食は糖質を極端に減らすので、インスリン/インスリン様成長因子-1のシグナル(IGF-1)伝達系を抑制します。インスリン/IGF-1シグナルは老化と癌細胞の増殖を促進するので、このシグナル伝達系を抑制することは寿命延長と癌予防に有効です。
 脂肪酸のβ酸化が亢進すると、脂肪酸の合成やグルコース代謝の解糖系が抑制され、転写因子のFOXOが活性化されます。更に、ケトン体自体に抗癌作用があることが指摘されています。
 脂肪の取り過ぎが健康に悪いという意見がありますが、魚油に多く含まれるω3系多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、アルファ・リノレン酸(亜麻仁油や紫蘇油やクルミに多く含まれる)、リノール酸、オレイン酸(オリーブオイルやアボカドに多く含まれる)などの食事から取る長鎖不飽和脂肪酸はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)のリガンドになります。

 ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)が活性化されるとAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化して脂肪酸の燃焼(β酸化)が亢進し、逆に脂肪酸の合成と解糖系は抑制されるので、癌細胞の増殖が抑制されます。(326話参照)
 ケトン食がアディポネクチン(脂肪細胞から分泌されて抗癌作用を示すタンパク質)を増やし、アディポネクチンはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、AMPKはmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)の活性を抑制します。
このような様々なメカニズムの相乗効果でケトン食は抗癌作用を示しています。抗癌作用以外のケトン食の健康作用について、最近の論文などから、いくつか紹介します。

 

 

 

【ケトン食はアルツハイマー病の治療に有効】
ケトン食は難治性てんかんの治療以外に、ブドウ糖を細胞内に取り込めないグルコース・トランスポーター1型欠損症に極めて有効で唯一の治療法としても利用されています。さらに、ケトン体は脳神経のエネルギー代謝を改善し、活性酸素や炎症から神経細胞を保護する作用があるので、ケトン食にアルツハイマー病やパーキンソン病や脳卒中等を原因とする脳神経細胞障害の進行抑制にも利用されています。
ケトン食が認知障害の改善に有効であることが臨床試験で示されています。以下のような論文があります。

Dietary ketosis enhances memory in mild cognitive impairment.(食事性ケトーシスは軽度認知障害の記憶力を増強する)Neurobiol Aging 33(2):425.e19 – 425.e27, 2012年


この論文では軽度の認知障害のある23人(男性10人、女性13人:平均年齢70.1±6.2)を対象に、高糖質食と低糖質食の2群に分けて6週間の食事療法を行っています。その結果、低糖質食のグループでは、言語記憶能力の統計的有意な改善を認め、さらに、体重、腹囲、空腹時血糖、空腹時インスリン値の統計的有意な減少が認められました。
記憶力の変化は、摂取カロリーやインスリン値や体重とは相関を認めませんでしたが、血中ケトン値は記憶力の改善と正の相関が認められました。つまり、ケトン体の濃度が高いほど、記憶力が良くなったということです。

この研究の結果は、アルツハイマー病の発症リスクの高い軽度認知障害をもつ高齢者に対して、6週間という短期間の食事(低糖質食)の介入だけで、記憶力の改善ができることを示しています。
その作用機序として、高インスリン血症の改善(アルツハイマー病を引き起こすアミロイドβを分解するのがインスリン分解酵素であるため、インスリンが増えるとアミロイドβが増えるという説)、ケトン体による抗炎症作用や神経細胞のエネルギー代謝の改善作用などが示唆されています。
ラットを使った実験でもケトン体が認知機能を高めることが報告されています。以下のような報告があります。

Diet-induced ketosis improves cognitive performance in aged rats.(食事によるケトン症は高齢ラットにおける認知機能を良くする) Adv Exp Med Biol 662: 71-75, 2010年
ラットを2群に分けて、標準的な餌とケトン食の餌で3週間飼育し、ラットの認知機能をT-迷路法や物体認識テストなどで認知機能を測定しています。ケトン食で飼育した群の方が認知機能が良かったという結果です。この実験結果は、食事によるケトン症が神経変性疾患の改善に効果があることを示しています。

【中鎖脂肪酸トリグリセリドはアルツハイマー病の治療に使われている】
米国では中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪酸中性脂肪)のカプリル酸トリグリセリドがアルツハイマー病の治療に有効な医療食(medical food) として認可されています(2009年3月にFDAが認可)。
カプリル酸(caprylic acid)は炭素数8個の中鎖脂肪酸です。分子式はC8H16O2です。
神経細胞はグルコース(ブドウ糖)とケトン体しかエネルギー源として利用できないのですが、アルツハイマー病ではグルコースの取り込みや利用に障害があり、そのため中鎖脂肪酸を摂取してケトン体の産生を増やすと神経組織のエネルギー産生が改善して症状が良くなると考えられています。
以上のように、ケトン体自体に神経をダメージから守る作用があり、さらに抗炎症作用などによって神経変性性疾患の治療に効果を発揮するということです。
脳卒中(脳出血や脳梗塞)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などにも効果があることが報告されています。
中鎖脂肪酸は未熟児や手術後の栄養補給にも利用されており、脂肪組織に蓄積せず、糖質のように、消化管から吸収されて門脈に入って直ちに肝臓でβ酸化されてATPを産生し、その際に糖質がなければ、ピルビン酸からオキサロ酢酸ができないので、β酸化によってできたアセチルCoAがTCAサイクルで処理できないので、アセチルCoAはケトン体の生成に向けられます(下図)。


図:TCA回路の最初のステップはアセチルCoAとオキサロ酢酸が結合してクエン酸になる反応で、オキサロ酢酸はピルビン酸からできるので、ブドウ糖が制限された条件では、アセチルCoAはケトン体合成へ振り分けられる。この図で長鎖脂肪酸がミトコンドリアに入る場合はL-カルニチンが必要であるが、中鎖脂肪酸の場合はL-カルニチンは必要ない。

【ケトン食が自閉症の症状を改善する】
ケトン食が難治性てんかんに有効であることは確立されています。その他、自閉症にも効果があることを示唆する臨床試験の結果も報告されています。
自閉症は、先天性の脳機能障害などによって、社会性や他者とのコミュニケーション能力に困難が生じる病気です。以下のような論文があります。

Application of a ketogenic diet in children with autistic behavior: pilot study.(自閉症の子供に対するケトン食の適用:予備試験)J Child Neurol 18(2)/113-8, 2003年
この臨床試験では、30人の自閉症の子供(4歳〜10歳)を4週間のケトン食+2週間普通食の6週間のサイクルで6ヶ月間治療を行っています。自閉症の症状の程度はChildhood Autism Rating Scale(小児自閉症評定尺度) という方法で評価しています。6ヶ月間の30人中18人(60%)で自閉症の症状が改善したと報告されています。小児自閉症評定尺度で12ユニット以上の著明な改善を2例、8〜12ユニットの平均的改善が8例、2〜8ユニットの軽度の改善が8例に見られたと報告されています。この臨床試験は予備的な段階ですが、自閉症の治療にケトン食が効果がある可能性が示唆されています。

【ケトン食はアディポネクチンの産生を増やす】
以下のような論文があります。

Metabolic impact of a ketogenic diet compared to a hypocaloric diet in obese children and adolescents.(肥満した小児および青年における低カロリー食と比較したケトン食の代謝に対する影響)J Pediatr Endocrinol Metab. 2012;25(7-8):697-704.
【要約】
背景:小児における代謝パラメーターに対する糖質制限食(ケトン食)の影響は十分に検討されていない。
目的:肥満している小児と青年におけるケトン食と低カロリー食の有効性と代謝に対する影響を比較する。
対象:58人の肥満者をケトン食と低カロリー食のどちらかに振り分けて6ヶ月間の食事療法を行った。
方法:食事療法の開始前と終了時(6ヶ月後)において、

・身体測定値(Anthropometric measurements)、

・身体成分(body composition)、

・経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose/insulin tolerance test)、

・血清脂質の値(lipidemic profile)、

・高分子量アディポネクチン値、インスリン抵抗性を評価するwhole-body insulin sensitivity index (WBISI)と homeostatic model assessment-insulin resistance (HOMA-IR)の測定と評価を行った。
結果:低カロリー食とケトン食の両方のグループにおいて体重、体脂肪量、腹囲、空腹時インスリン値、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)の著明な減少あるいは低下を認めた(ケトン食はp=0.009、低カロリー食はp=0.014)。しかし、効果はケトン食の方が高かった。


両グループともインスリン感受性(WBISI)は統計的有意に上昇したが、高分子量アディポネクチンの増加を認めたのはケトン食のグループだけであった(p=0.025)。
結論:ケトン食療法は、体重の減量や代謝数値の改善において低カロリー食よりも効果が高く、肥満小児の体重減量の治療法として、安全で実施可能な食事療法であることが明らかになった。

この研究で最も注目すべき点は、高分子量アディポネクチンの値が、低カロリー食では有意な上昇を認めず、ケトン食でのみ増加が認められた点です。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンのような蛋白質で、肝臓や筋肉細胞のアディポネクチン受容体に作用してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、インスリン抵抗性を改善し、動脈硬化や糖尿病を防ぐ作用があります。さらに、癌細胞におけるAMPKの活性化は様々な抗癌作用を発揮します。
百歳を超えるような超高齢者ではアディポネクチンの産生量が高く、これが長寿と癌発生率の低下に関与している可能性が指摘されています。癌の発生率や罹患率や癌による死亡率は80歳代をピークにして、90歳代以降は急激に減少することが明らかになっていますが、その理由の一つとして、超高齢者では体脂肪が減少し、アディポネクチンの産生が高くなっていることが関与している可能性が指摘されています。(第316話参照)
アディポネクチンは血中に1分子ずつバラバラにではなく、複数個がくっついた形で存在しています。低分子量(3量体)、中分子量(6量体)、高分子量(12〜18量体)です。中でも高分子量アディポネクチンが生理活性が強いことが知られていますので、活性の高い高分子量のアディポネクチンの値がケトン食で増加したことは、ケトン食が寿命の延長やがんの予防に効果があることを示唆しています。
また、アディポネクチンには、がん細胞の増殖や転移の抑制など様々な抗がん作用があることが報告されています。人の胃がん細胞を移植したマウスにアディポネクチンを注射すると、がんが著しく縮小したという報告があります。 
また、ラットを使った実験で、ケトン食が、脂肪組織におけるアディポネクチンmRNAの量を増やすことが報告されています(J Clin Neurosci. 2010 Jul;17(7):899-904. )
ケトン食は、がん細胞へのブドウ糖(グルコース)の供給を減らし、さらにインスリンやインスリン様成長因子の産生を減らすことによって増殖シグナルを低下させるメカニズムなどによって抗がん作用を発揮します。さらに、ケトン食が寿命延長作用と抗がん作用のある高分子量アディポネクチンの産生を増やすという臨床試験の結果は、ケトン食の抗がん作用をさらに支持することになります。

【不飽和脂肪酸はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)を活性化する】
脂肪の取り過ぎが健康に悪いという意見がありますが、これは脂肪酸の種類によって健康への影響が全く異なるという点を理解しておく必要があります。肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸や食用油(菜種油、大豆油、紅花油、ごま油、ひまわり油、コーン油など)の摂取はがんや動脈硬化を促進する作用があります。
一方、魚油に多く含まれるω3多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、亜麻仁油や紫蘇油やクルミに多いαリノレン酸、オリーブオイルやアボカドに多いオレイン酸は、多く摂取しても問題ありません。
オリーブオイルをふんだんに使用する地中海料理ががんや心臓疾患の予防に有効であることは良く知られています。糖質を制限した地中海料理(ケトジェニックな地中海料理)が、メタボリック症候群の改善に効果が高いことが臨床試験で確かめられています。(第305話参照)


DHAやEPAなどの食事から取る長鎖不飽和脂肪酸はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)のリガンドになります。PPARαが活性化されると脂肪酸のβ酸化が亢進し、脂肪酸の合成と解糖系が抑制され、がん細胞の増殖が抑制されます。

(第326話参照)

【脂肪の燃焼が増えると寿命が延びて、がん細胞の増殖が抑えられる】
人類が農耕を初める前、すなわち1万年以上前の旧石器時代においては、食べ物は狩猟や採集によって得ていました。狩猟採集民にとっては食事が毎日できるという保証はありません。獲物が捕れない日もあるからです。
毎日食事にありつけないかもしれないという状況は、人類に限らず野生の動物でも同じです。そのような飢餓との戦いの中で進化した人類や動物は、何日も食べなくても体を維持し動かせるような仕組みを作り上げてきました。すなわち、食事で余ったエネルギーを脂肪として貯蔵し、食事が取れないときに貯蔵した脂肪を燃焼させて体が必要とするエネルギーを産生するという仕組みです。
このような仕組みは有史以前の人類にとっては都合の良いものでした。何日も食料が得られなくても獲物を求めて動く事ができるからです。しかし、人類が作物を育て、家畜を飼育し、食物を保存する方法を知り、食物が豊富な時代に入ると、余ったエネルギーを体脂肪に貯蔵するという仕組みが多くの病気の原因になるようになってきました。すなわち、肥満や糖尿病やメタボリック症候群の原因となってきたのです。
蓄えられた余分な脂肪は、体がエネルギーを必要としたとき、すぐに燃焼してエネルギーに変わればなんら問題ありません。しかし、そうならない理由がたくさんあります。
人はエネルギーを必要とする時、蓄えられた余分な脂肪を燃やす前に、空腹感を覚え、炭水化物を欲しがります。貯蔵されるエネルギー源としては脂肪の他にグリコーゲンがありますが、グリコーゲンは筋肉や肝臓に貯蔵されていますが、その体内貯蔵量は200〜300グラム程度です。糖質1gのエネルギーは4キロカロリーなので、800〜1200キロカロリー程度、すなわち数時間から半日程度で枯渇します。一方、体脂肪には1〜2ヶ月分程度のエネルギーが貯蔵されています。体脂肪率20%で体重60kgの人では12kgの脂肪が存在し、これが全て燃焼すれば10万キロカロリーになり、1日2000キロカロリーを消費しても50日分になるという計算です。 
食事が入ってこなければ体脂肪が燃焼し始めますが、食料が豊富な現代においては、脂肪に蓄えられたエネルギーを使う前に、手近なエネルギー源である炭水化物(糖質)の摂取を体は要求し、多くの人はその誘惑に負けてしまいます。
私たちの体はエネルギーを多く含む食物をほしがるようにプログラムされており、エネルギ−を多く含む食物(砂糖や脂肪など)を一番おいしいと感じます。そして、美味しいものを満腹になるまで食べるのが動物の本能です。人間には動物と違って生物学的欲望を制御できる知性がありますが、美味しい食事を制限するにはかなりの努力が必要です。
人間が作り出した食文化は、食事の栄養機能(一次機能)や生体調節機能(三次機能)より食事の楽しみ(二次機能)を優先するようになっています。料理対決のテレビ番組では、美味しさを追求することしか食事の目的を考えていないようです。美味しさや満腹感だけを追求したファーストフードやジャンクフードが中心になっている食生活ががんやメタボリック症候群を含めて多くの病気の原因になっていることは確かです。
糖質の取り過ぎは、イライラや鬱病のような精神的な不調や、生命を脅かすがんや循環器疾患、健康的な生活を妨げる糖尿病や認知症など、多くの疾患や不調の原因となっていることが指摘されています。このように糖質の取り過ぎや肥満が健康に悪いと言われても、食事を減らしたり、内容を変える人はまだ多くありません。食物が豊富な現代においては、食事に対する本能を制御できなくなっている人が多いようです。これが近年、肥満や糖尿病やメタボリック症候群が増えている理由です。
糖質は単純な構造をしており最も迅速にエネルギーに変わることができる栄養素です。空腹時や運動の後に炭水化物を欲しがるのは、迅速にエネルギーに変わるからです。脂肪の分子構造はより複雑で、燃焼(酸化)してエネルギーに変えるには余計なエネルギーと時間がかかります。したがって、食事から摂取したり蓄積している脂肪を分解する前に、手近な糖質をエネルギー源として欲するのです。そして、糖質を多く摂取しているかぎり、脂肪は燃焼しません。したがって、欲するままに糖質を摂取すれば、脂肪は燃焼せず、余分な糖質が脂肪に変換されて、さらに体脂肪が増えるという悪循環を形成します。
糖質が多い食事では、下図に示すように、脂肪酸やコレステロールの合成が亢進し、がん細胞があると、増殖を促進することになります。



図:高糖質食では、グルコースの解糖系とTCA回路でエネルギー(ATP)が作られ、余った糖質は脂肪酸やコレステロールの合成に回される。このような状況では、がん細胞の発生や増殖が促進される。   

さて、それでは、糖質を減らして、脂肪の燃焼を促進するとどうなるか、どのような健康作用があるかということが疑問になります。エネルギー源として糖質も脂肪も差が無いのであれば、甘くて美味しい砂糖や澱粉の多い食事で問題ないはずです。しかし、最近の研究で、糖質を多く摂取すると、がんや糖尿病やメトボリック症候群や神経変性疾患(アルツハイマー病)やアレルギー性疾患のリスクを高め、さらに寿命を短くすることが明らかになっています。
一方、脂肪に関しては、肉や植物油に含まれる飽和脂肪酸やω6系不飽和脂肪酸の取り過ぎは健康に悪いのですが、糖質を減らした条件で、その減ったカロリー分をオレイン酸を含むオリーブオイル、ω3系不飽和脂肪酸の魚油(ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸)や亜麻仁油やエゴマ油や、迅速に代謝されてエネルギーに変換される中鎖脂肪酸中性脂肪(中鎖脂肪)で補って、脂肪酸の燃焼を亢進すると、多くの病気の予防に効果があり、さらに寿命を延ばす可能性を指摘する研究結果が多く報告されるようになりました。
即ち、線虫やショウジョウバエやネズミを使った実験で、脂肪酸の燃焼を促進すると、様々なストレスに対する抵抗力が高まり、寿命がのびるという研究結果が得られています。糖質の摂取を減らしてインスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)のシグナル伝達系を抑制することが、寿命延長やがん細胞の増殖抑制にも効果があることが報告されています。さらに、糖質摂取を制限し、脂肪酸の燃焼を促進してケトン体を多く産生すると、がんや炎症性疾患や神経変性疾患を予防したり改善する効果があることが報告されています。
狩猟採集を行っていた時代には、飢餓状態において貯蔵脂肪が盛んに燃焼し、日常的にケトン体が多く産生されていました。多くの病気の治療に絶食療法が有効であることは経験的に知られています。その作用機序の一つが脂肪の燃焼とケトン体の産生にあります。絶食しなくても、低糖質食と間欠的な絶食(プチ断食)や中鎖脂肪ケトン食によって絶食や断食と同じような効果が期待できます。カロリー制限をせずにカロリー制限と同様の寿命延長効果とがん抑制効果が期待できるのがケトン食なのです。
ケトン体を日頃から出す生活の方がより健康的であることは、以上の説明で理解できると思います。ケトン体が体に悪いという間違った認識が早く是正されるべきだと思います。 


図:低糖質と高脂肪食によるケトン食では、脂肪酸のβ酸化の亢進やケトン体の増加によって、脂肪酸やメバロン酸の合成が阻害されて、がん細胞の増殖は抑制される。さらに、アディポネクチンやAMPKが活性化し、転写因子のFOXOの活性も亢進し、抗酸化力やストレス抵抗性が高くなる。これらの相乗作用と総合的効果によって、抗老化、寿命延長、がん抑制の効果が期待できる。

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