アルツハイマー病への対応 2

 「アルツハイマー病の真実と終焉」の翻訳者・山口茜氏の記事が東洋経済に紹介されていたので、今回は、前編と後編をご紹介します。

http://toyokeizai.net/articles/-/208888


 最新の研究によると、認知症を起こす原因の6割以上を占めるアルツハイマー病は、食事や運動、睡眠といった生活習慣を40代から見直し、必要なサプリを補うことなどで、予防できる人が多いという。さらに、認知機能を維持するために食べるべき食品、避けるべき食品も明らかになった。

 アメリカで認知症から500人以上を回復させた革命的な「治療法」と「予防法」について、ご紹介します。

 アルツハイマー病は治療によって回復可能だ 500人以上が回復した革命的治療法とは? 2018年02月16日

 「アルツハイマー病の真実と終焉」

 アメリカで500人以上を回復させた革命的なアルツハイマー病の治療法・予防法とは?

 超高齢社会を迎えた日本。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推定されている。しかし、これまで画期的な治療法はなく、認知症と診断された人は「現在のところ確実な治療法はありません」と医師から告げられるのが関の山だった。

 ところが4年前、驚くべき研究結果が発表された。なんと認知症のうち6割強を占めるアルツハイマー病は、治療によって回復することが分かったのだ。

 アメリカでアルツハイマー病から500人以上を回復させた革命的な「治療法」と「予防法」について、『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム)を翻訳した医学ジャーナリスト、山口茜さんが2日連続で解説する。

前編「治療法」

 今後ますます高齢者人口が増えていく日本にとって、認知症にまつわる経済的負担がこれ以上膨らめば、国の医療体制の存続にも影響しかねない。認知症は人生を奪われる患者自身だけでなく、介護にあたる家族の人生も巻き添えにする。

 認知症を起こす原因の6割以上を占めるアルツハイマー病で有効な治療法があれば、日本にとって朗報となるだろう。

「炎症」「栄養不足」「毒素」の3つが原因

 アルツハイマー病の回復がヒトで初めて論文報告されたのは2014年。「アルツハイマー病患者の回復が史上初めて発表された」とのニュースは、瞬く間に世界を駆け巡った。

 アルツハイマー病の原因はこれまで、脳に「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が蓄積することとされてきた。

 そして従来の治療は、脳に溜まった悪者として、アミロイドベータの除去に主眼が置かれてきた。

 しかし、アミロイドベータを除去する薬剤は、症状を緩和させることはあっても、病気の進行を抑制させたり回復させたりしなかった。

 アルツハイマー病でアミロイドベータがなぜ脳に溜まるのか――。

 研究の結果、「炎症」「栄養不足」「毒素」の3つが原因であることが分かった。

アミロイドベータが脳に蓄積する3つの原因

(1)炎症(感染、食事、その他さまざまな原因による)

(2)栄養素の不足(神経栄養因子、ホルモンなど)

(3)毒素(カビなどの生物毒や金属など)

 更に、アミロイドベータは単なる悪者ではなく、脳の防御反応による「脳細胞を守る兵隊」であったことも分かった。

 アミロイドベータが溜まる3つの原因は、脳にとって脅威だったのだ。

ところが、その脅威が払拭されないままだと、アミロイドベータが過剰になり、最終的に守るべき脳細胞を壊してしまう。

 裏を返せば、アミロイドベータが溜まる原因(脳の脅威)を取り除いていけば、アルツハイマー病から回復でき、病気にかかるリスクも低減できる。新しい理論に基づく治療プログラムがこれを可能にする。

認知機能を回復させる新治療法

 「リコード法」と呼ばれる新しい治療法を確立したのは、この分野で30年にわたり研究を続けてきたデール・ブレデセン医師。アルツハイマー病など神経変性疾患の世界的権威として知られる。

 ブレデセン医師は2017年8月、リコード法についてまとめた書籍『アルツハイマー病 真実と終焉』を本国アメリカで一般向けに発売し、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルでもすぐにベストセラー入りを果たした。

リコード法で治療すれば認知機能を回復でき、早期であれば完全回復も期待できるという。

 その治療プログラムは、食事、運動、睡眠といった生活習慣の指導や、脳の栄養不足を補うサプリメント、脳トレーニング、ストレス対策など、実に多岐にわたる。

リコード法は、ひとりでは迷子になってしまうような状態だった患者が職場復帰を果たすなど、素晴らしい成果を挙げている。まさに、これまでの医療の常識を打ち破るものだった。

 リコード法を始めるにあたっては、アミロイドベータが脳に溜まる3つの原因に対する脆弱性を的確に検査する必要がある。ブレデセン医師はこれを「認知機能検査」と呼ぶ。

 実は、アルツハイマー病と診断される15~20年前から、すでに病気は始まっている。年齢でいえば、ちょうど40歳を迎えた頃からが危なく、病気がひっそりと進行し始めている人が多い。

 50代になったら腸の内視鏡検査を行うように、40代のうちに認知機能検査を受けるのが理想的だという。

 恐ろしいことに、認知症は発症するまで、ほとんど何の症状もない。

 あったとしても、「些細な物忘れ」「夕方に疲れが出る」「人の顔を覚えにくい」など、“歳のせい”で片付けてしまうようなものばかりだ。

 言葉がうまく思いつかない、会話に入れない、少し前の出来事もすぐに忘れてしまう、いつも通い慣れた高速道路でどの出口を出れば家に帰るかわからなくなってしまう……。放置したままだと、このようにいずれ認知機能の障害につながっていく。

 そして、認知症と診断される頃には、病気自体はすでに末期を迎え、日常生活に介護が必要な状態になっている。

生活史を振り返ってみよう。

 認知機能が低下している原因を確かめる上では、これまでの生活史を振り返ってみることも大切だ。

 頭のケガや過去に受けた全身麻酔、喫煙、飲酒、別の病気で処方されている治療薬、口腔内の不衛生、いびき、慢性副鼻腔炎、自宅・職場・車のカビ、ダニに噛まれたこと、化粧品やヘアスプレー、制汗剤の使用、便秘、あまり汗をかかない、といったことも手がかりになるという。

 自分で認知機能の低下を自覚している段階であれば、リコード法で今のところ全ての人が回復しているという。しかし、症状がある程度進んでしまうと、100%の回復は望めなくなっていく。

 このため、ブレデセン医師は「認知機能検査で目標値から外れている項目があれば、すぐにリコード法を始めてほしい」と力説している。

 これは症状がない人も同じで、この時点からスタートすれば、一生アルツハイマー病を寄せ付けずに過ごすことも可能だ。つまり、予防できるわけである。後編では、この予防法について解説する。

後編「予防法」

 最新の研究によると、認知症を起こす原因の6割以上を占めるアルツハイマー病は、食事や運動、睡眠といった生活習慣を40代から見直し、必要なサプリを補うことなどで、予防できる人が多いという。更に、認知機能を維持するために食べるべき食品、避けるべき食品も明らかになった。

 これまで多くのアルツハイマー病患者を救ってきたデール・ブレデセン医師は著書『アルツハイマー病 真実と終焉』で、その詳細な治療と予防の方法を紹介している。

一生アルツハイマー病を寄せ付けずに過ごすにはどうしたらよいか詳述する前に、まずはアルツハイマー病の類型について説明しよう。

 アルツハイマー病は、混合型も含め4つのタイプに大別できる。

 ①炎症性アルツハイマー病

  脳の炎症が原因で起き、食事も深く関与している

 ②萎縮性アルツハイマー病

  脳機能の維持に必要な栄養素やホルモンの欠乏で起こる

 ③糖毒性アルツハイマー病(炎症性と萎縮性の混合型)

  いわゆる糖尿病から起きる

 ④毒物性アルツハイマー病

  カビ毒や歯の治療に使われる材料に含まれる水銀などの毒素から起き、治療が最も難しいとされる

 毒物性の場合は、生活の中の毒素をまず特定して除去する必要がある。毒素を除去しないままアミロイドベータを取り除く従来治療を行うと、実はアミロイドベータにより守られていた脳細胞が直接毒素にさらされ、逆に危険な場合があるという。

治療には「オーダーメイド医療」が必要

 更に、アルツハイマー病には36の要因があることも研究で明らかになった。

 アルツハイマー病患者は、脳神経の増減に伴う代謝バランスが常に減少方向に傾いているという。このバランスを調節する要因が少なくとも36項目は特定されているのだ。

 アルツハイマー病の症状が出ている場合、36の要因のうち、10~25項目は脳神経を縮小・減少する方向に傾いている場合が多いという。

 このため、「アルツハイマー病患者の脳は、『36個の穴が空いた屋根』のようだ」とブレデセン医師は語る。

 屋根に空いた穴が多いほど、雨はどんどん漏れてくる。アルツハイマー病の治療は、この穴をひとつひとつ塞いでいくことで初めて可能になる。

 1種類の薬剤が塞げる穴は通常1~2個。アルツハイマー病はひと粒の薬で治るような代物ではなく、包括的な治療を集中的に行わなくてはならない。

 人によって空いている穴の数も大きさも違うため、アルツハイマー病の治療には、一人一人に合わせた細やかなメニューが必要だ。

食べるべき食品、避けるべき食品

 リコード法の治療プログラムは、食事、運動、睡眠といった生活習慣の指導や、脳の栄養不足を補うサプリメント、脳トレーニング、ストレス対策など、実に多岐にわたる。

 食事については、「ケトフレックス12/3」と名付けられた食事法の実践が前提になっている。体のエネルギーとして脂肪を燃焼する状態を目指すもので、この状態は認知機能にとって最適だという。

 この状態を促すには、次の3つを組み合わせる必要がある。

(1)糖類、パン、ジャガイモ、白米、ソフトドリンクなどの単純炭水化物食品を最小限にする(低炭水化物食…要するに糖質制限)

(2)適度な運動(早歩きやもっと激しい運動を週150分以上)

(3)毎日少なくとも12時間は絶食する(夕飯から朝食まで12時間は空ける)

 認知機能を最適な状態には、『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』で一躍有名になったMCTオイルやココナッツオイルなどの中鎖脂肪酸、オリーブオイル、アボガド、ナッツなどといった不飽和脂肪酸の摂取も有効だ。

 基本的に野菜を中心とし、ジャガイモなどのでんぷん質の野菜は控えめにする。ただし、サツマイモやグリーンバナナなどの難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)は例外で、毎日食べても構わないという。

 このほか、頻繁に食べたい“青色信号食品”として、デトックス効果のあるブロッコリーやカリフラワーなどアブラナ科の野菜、ケールやホウレンソウなどの葉物野菜、タマネギやニンニクなどの硫黄化合物を含有している野菜、キノコ類、クズイモ、ネギ、キクイモなどのプレバイオティクス食品なども挙げられている。

 又、天然ものの魚もいい。特にサケ、サバ、アンチョビ(カタクチイワシ)、イワシ、ニシンは水銀汚染が少なく積極的にとるべきだ。平飼い卵、キムチやザワークラウトなどのプレバイオティクス食品も“青色信号食品”に入る。

 一方、なるべく食べる機会を最小限に抑えたい“赤色信号食品”としては、パン、パスタ、コメ、ケーキ、ソーダなどの単純炭水化物がメインの食品が挙げられる。

 さらに穀類、加工食品、マグロ、サメ、カジキマグロなど水銀汚染リスクが高い魚類のほか、パイナップルなどの甘い果物、グルテンや乳製品など過敏性が出やすい食品なども“赤色信号食品”に入る。

 チーズやオーガニックの全乳、プレーンヨーグルトはたまにならよい。

劇的に改善する場合も

 しかし、生活習慣、特に食べ物を変えることは案外難しいものだ。『アルツハイマー病 真実と終焉』では、ブレデセン医師が多くのアルツハイマー病患者を診療して得た「マル秘テクニック」が紹介されている。

 例えば、炭水化物を食べる時は、先にケールなど食物繊維を豊富に含む食べ物をとるようにすると炭水化物の吸収が抑えられ、腸内フローラにも良い影響がある。また、どうしてもアイスクリームが食べたいときは、ココナッツミルクのアイスクリームにするといった奥の手もある。

 患者の中には、完璧にプログラムをこなしているわけではなくても、認知機能を良好に保っている人もいる。人により重要な項目がいくつか存在し、すべてとはいかなくてもいくつかのプログラムメニューを守るだけで、認知機能が劇的に改善する場合もあるという。

 意外かもしれないが、欧米で高所得者が多い国では、すでに認知症の年齢別発症率が減少傾向にある。

 アメリカ東海岸にあるフラミンガム町の住民を長年にわたり追跡調査している「フラミンガム研究」では、60歳以上の住民で認知症の5年発症率がこの30年で44%も低下したことが明らかにされている。

 しかし、認知症リスクが統計学的に有意に減少していたのは、高卒以上の学歴のある集団のみだった。

「恍惚の人」がいなくなる時代へ

 今後は、リコード法のような新しい治療や予防の知識があるかどうかが、アルツハイマー病の発症に大きく影響する可能性がある。

 21世紀の認知症医療では、より早期に診断し、症状が出てからというよりも、むしろ予防していくことが主軸になっていくだろう――。ブレデセン医師はこうみている。

 日本ではまだリコード法を取り入れている施設は少ない。白澤卓二医師が院長を務めるお茶の水健康長寿クリニックなどは、すでにブレデセン医師の原著を読み、診療に取り入れている。

 有吉佐和子氏の小説『恍惚の人』が認知症介護の闇に光を当ててから約半世紀が過ぎた。リッチな欧米諸国だけでなく、日本にもそろそろ「恍惚の人」がいなくなっていく時代が来てもいいのではないだろうか。

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